諜報部長!お世話になってます!
さすらいの情報収集家Kです。

さて、今回のテーマは前回に引き続き、
「副業解禁」についてです。
しっかりチェックしておきましょう!

副業は本当に解禁されたのか? <後篇>

前回、まだ副業解禁というレベルではない
ことを述べましたが、実際に副業をはじめたい
と思っている人も多いでしょう。

そこで、実際に始めようと考えている個人や
企業が直面するハードルについて考えてみたいと思います。

●副業を容認しようにもハードルが多い

近年は人手不足が深刻化していますから、
職場環境を改善しようと
副業を認める企業も増えてきているのも事実です。

ですが、実際に企業が副業を容認しようとすると、
多くの問題に直面します。

◆就業時間の通算問題

1つは、就業時間の問題です。
労働基準法第 38 条では
「労働時間は、事業場を異にする場合においても、
労働時間に関する規定の適用については通算する。」
と規定されており、別の会社での労働時間も含むことになっています。

つまり、本業・副業の労働時間は通算する必要があるのです。
そのため、残業時間の取扱いが極めて困難になります。

そもそも労働基準法では、
法定労働時間を1日8時間、週40時間まで
と規定していますので、原則それ以上の労働はできません。

つまり、本業で8時間働いた後、
副業で3時間働く場合、
副業の労働時間はすべて
時間外労働」となってしまうわけです。

そのため、副業先の企業は、
時間外労働として割増賃金を支払う必要
があります。
また、労使間協定の改正、
労働基準監督署への届出が必要
(※補足参照)になります。

ですが、労働者から見れば、
これは現実的ではないでしょう。
これから副業で働こうと思っている会社に
「時間外労働になるので割増しでお願いします」
などと言えるわけありません。

結果的に、労働者が泣き寝入りする
ことになってしまいます。

仮に、理解のある経営者だったとしても、
割増賃金を支払うのは
本業と副業のどちらの会社であるべきかで
両社が争うことになる可能性もあります。

また、経営者が時間管理をしなくてもよい
「請負契約」に変更を持ちかけられることもあるでしょう。
その場合は、労働実態と異なる偽装請負
となる可能性が高いことに加えて、
労働時間管理、社会保険などで
従業員側が不利になるケースが多いと思います。

───────────────────────────────────

※補足:時間外労働とは
労働基準法では、法定労働時間以上の労働は認めていません。
ただし、特例措置として労働基準法36条で
「法定労働時間を超えて労働させる場合は、
あらかじめ労働組合と使用者で
書面による協定を締結しなければならない」
と定められています。

ですから、残業をさせる必要がある企業は、
労使間の協定(36協定)を締結し、
労働基準監督署に届け出ること
になります。

36協定の内容は、残業させる理由や残業させる人数、
1日・1ヶ月あたりの残業時間などで
事前に経営者と労働者の代表が協議して
納得した上で結ばれたものになっています。

また、時間外労働には割増賃金として、
基礎賃金の1.25倍以上を支払わなくてはならない
とされています。

ですが、その運用実態には大きな問題があります。
厚生労働省の調査では残業をさせている企業のうち、
過半数以上が労使間協定を結んでいない
という実態が明らかになっているのです。

一応、罰則もある規定なのですが、
労働基準監督署も積極的に取り締まるわけでもなく、
定期的に調査するわけでもないので、
実態はかなりのザル法だということです。
(先日の国会で可決された働き方改革関連法案の中に、
事実上青天井であった残業時間に
罰則付きで上限を設ける法案が含まれています。
現状機能していない労働基準法36条を
引き締める意味合いもありそうです。)

───────────────────────────────────

労働者がしっかり時間管理や報告をしようが、
経営者が理解ある場合であろうが、
どのようなケースにおいても、
労働者側が一方的に不利な状況に陥るのは可能性が高いのです。

今回改訂されたモデル就業規則でも、
こうした状況は想定しているのですが、
「労働者の自己申告により
労働時間を事業主が把握し、
適切に配慮することが望ましい」
とだけ言及し逃げています。

要するに
「厚労省は関知しないので、
企業間で適切にやってくれ」
と言わんばかりの内容です。

◆健康管理の問題

2つ目は健康管理の問題です。
企業は、従業員が副業・兼業しているに関わらず、
労働安全衛生法第66条などに基づき、
健康診断やストレスチェック等を実施しなければなりません。

健康管理が義務付けられているのは、
常用の従業員に対してです。

この時の常用の従業員とは、
次の条件の両方にあてはまる人です。

【常時使用する労働者】
  • 期間の定めのない労働契約により使用される者。
    (期間の定めのある労働契約により使用される者であって、
    契約期間が1年以上である者
    並びに契約更新により1年以上使用されることが
    予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)
  • 1週間の労働時間数が当該事業場において
    同種の業務に従事する通常の労働者の
    1週間の所定労働時間の3/4以上である者

これは副業をするパート・アルバイトも含まれますが、
1週間の労働時間が一般の社員の3/4以上という条件があるため、
場合によっては本業・副業どちらの会社でも
健康診断等を受けられないケースがあります。
※例えば、本業5時間、副業3時間で週5日勤務のような場合は、
1週間の労働時間が本業25時間、副業15時間となり
基準となる労働時間(週40時間の3/4=30時間)をどちらも超えない。

また、近年の過労死問題などを背景に、
労働契約法第5条には、安全配慮義務が定められており、
従業員の生命や健康、安全に対する
使用者としての配慮が法的にも問われる状況になっています。

そのような状況で、過労になりがちな
従業員の副業を認めることが、
安全配慮が欠如していた
と問われる可能性も捨てきれません。
※当然、本人意思で副業をするのですから
本質的に企業の責任はなさそうですが、
労働時間の通算管理義務・健康管理義務等があるため、
従業員の副業について「全く知らない」と言える状況にありません。

特に近年は、過労死等防止対策推進法などが推進され、
過労死に対する企業の責任が大きくなってきています。

◆労災の問題

企業は、従業員を1人でも雇用していれば労災保険の加入が必要です。
労災保険料や労災認定された際の給付金については、
各企業の賃金に基づき算定されます。

そのため、本業の会社から副業の会社へ移動する際に
交通事故にあったような場合、
副業先の労災として認定され、
副業先の賃金に基づいてのみ給付されることになります。

つまり、通勤中の事故により本業・副業
ともに休まなくてはいけないような場合においても、
休業補償給付はどちらか1社への通勤と見なされ、
1社分の賃金に基づいた給付金額になってしまいます。



以上、いかがでしょうか。
サラリーマンが2つ以上の
会社から給料を受け取ることは、
様々な問題があるのです。

この他にも社会保険関連にも問題をはらんでいますし、
まだまだ想定されていなかった問題が出てくるでしょう。

ですが、現段階で厚労省も認識しているような問題を
企業や個人の責任として丸投げしておきながら、
「副業解禁」とは無責任極まりないと言わざるを得ないのではないでしょうか。

一方で、給与所得以外の副業
(個人事業主としての所得、不動産所得、株などの投資、その他の雑所得)
については、ここまで問題にしたような法的な問題は起きにくい状況ではあります。

しかしながら、過労に関する問題などは
個人事業を副業にしても起きうるものですから、
包括的に対応できる新しい概念が必要なのではないでしょうか。

いずれにしても、現段階の副業解禁では、
パート・アルバイトのような
2社以上から給料をもらう場合は、
様々な問題をはらんでいることを十分理解しておいた方が良いと思います。

今後、こうした問題に国がどのような対策を講じてくるか、
しっかりと見守るべきでしょう。

さて、今回は以上です。
次回も宜しくお願い致します。