諜報部長!お世話になってます!
さすらいの情報収集家Kです。
さて、今回のテーマは、
引き続き「米中貿易戦争」についてです。
しっかりチェックしておきましょう!
■米中貿易戦争が本格化! 今後の行方は? 《後編》
前回、前々回と米中貿易戦争の状況をまとめて来ましたが、
今後の動きを左右するのは、
おそらく「世論」がどう動くかになりそうです。
今回の貿易戦争後に両国の世論が
どのような状況にあるのか、まとめてみます。
●米国の世論は? トランプは貿易秩序を破壊するのか?
CNNなどのアメリカの代表的なメディアが
報じる論調を見ると、
トランプ政権が仕掛ける貿易戦争は
「世界の貿易秩序を破壊する」
「自由主義の敵」
といった痛烈に批判している内容が多いですが、
一般国民はどう見ているのでしょうか?
アメリカの大学が行った世論調査によれば、
中国製品への関税を「支持する」が52%、
「反対」が36%と言う状況で、
まだ「手ぬるい」という声が多く、
反対どころか「もっとやれ」
と考えている人が多いようです。
また、貿易戦争開始後の
7月中旬に調査されたトランプ大統領の支持率は、
45%に達し、前月よりも1%上昇しています。
今年1月時点の支持率36%から徐々に上昇してきており、
ロシアゲートや今回の貿易戦争などの
メディアからの批判を浴び続けても、
なお持ち直していると考えると
一般国民の支持は根強いと言えそうです。
特に、中国製品への関税については、
トランプ大統領の支持率を超えていることを考えれば、
共和党支持者以外にも評価されていると見ることができます。
こうした支持の背景には、
「自由貿易によって米国の製造業が
大きな打撃を受けてきており、
その恩恵を中国が多分に享受している」
という考えが根底にあるようです。
また、中国は著作権などの知的財産を侵害したり、
企業の技術転用が強制されたりする制度などがあり
「アンフェア」であると大半の米国民は考えているようです。
ですから、こうしたアンフェアを正すために
トランプ大統領が取り組んでいる過程に
今回の貿易戦争があると見ているようです。
さらに、特定の産業界からも
中国への懸念が高まってきています。
今年4月、広東省深センに本社を置く
中国の2大通信機器メーカーの
中興通訊(ZTE)と
華為技術(ファーウェイ)に
米国が制裁を与えました。
その理由は、イランや北朝鮮に
核開発やロケット開発にも通じる通信機器を
長年にわたり違法に輸出していたことや
中国政府のスパイ活動に利用していることなどです。
特に、中国の産業スパイについては
2012年頃から米国議会でも
継続的に指摘されてきた経緯があり、
シリコンバレーやハイテク産業界を中心に
急速に危機感が高まっています。
そうした中、トランプ政権は6月19日に
「中国が知的財産権を盗み、米国経済と安全保障を脅かす」
とした報告書を発表。
これが、米国が中国への貿易制裁をする
直接的な理由になったわけです。
事実としてZTEやファーウェイが製造する通信機器は、
次世代移動通信「5G」を支える機器を開発しており、
これが世界を席巻するとの見方もあります。
5Gとは、IoTを支える基幹技術で
あらゆる物のインターネット接続を実現するものです。
仮に、中国製の5G通信機器が
大きなシェアをとるようなことになれば、
あらゆる通話・通信が中国政府によって傍受され、
米国経済や国家安全保障に
多大な影響を与えることになりかねません。
こうした指摘をCIAなどの米国の情報機関がしており、
中国脅威論が急速に高まっているようです。
もちろん、単純にZTEやファーウェイが競合となる
米シスコシステムズのような
通信機器メーカーを守るためといった
トランプ政権の保護主義的な動きと見ることもできます。
ですが、事実として中国政府は
「中国製造2025」を掲げ、
ハイテク産業の競争力を伸ばそうとしており、
それに合わせるように
産業スパイの動きが活発化しています。
中国の諜報機関がスパイ工作によって入手した情報は、
中国の企業が欲すれば提供される状況ですから、
計り知れない脅威と見ているのは間違いないでしょう。
このように、中国の貿易赤字をキッカケとして、
知的財産権侵害などの中国のアンフェアな体制や
さらには国防安全保障の脅威
とまで見方が拡大しているといのが米国の状況のようです。
こうした背景が、
米中貿易戦争が支持されている理由でしょう。
加えて、トランプ政権の経済政策は
これまでのところ良い結果が出てきていることから、
さらに後押しされていく状況となりそうです。
●中国世論は? 習近平体制に危機?
対米貿易戦争をキッカケとして、
習近平体制はどのように評価されているのでしょうか?
そもそも中国は言論統制が厳しくされていますから、
ブログやSNSなどでも中国共産党や習近平体制への批判はできません。
そうした背景もあり、
多く聞こえてくるのは「対米貿易戦争に勝て」という声で、
習国家主席はこの貿易戦争から引くことはないでしょう。
一般国民の声の中には、
「米国製品の不買運動を始めよう」というものや、
かつて日本がやられたように
「大規模なデモするべき」
という話も少なからず聞こえてきているようです。
こうした強硬姿勢の声が多いのには、
習近平国家主席が世界の覇権を
目指してきたことが大きく影響している可能性があります。
習近平が、オバマ・トランプの両大統領に、
太平洋の東を米国、西を中国が管理し、
太平洋を米中で二分しようとする
中国側の膨張政策に理解を求めたことに象徴するように、
世界の覇権に挑戦する政策を次々に打ち出してきていました。
中国主導による世界最大規模の
経済圏構想である「一帯一路構想」、
日米主導のアジア開発銀行(ADB)への対抗である
「アジアインフラ開発銀行(AIIB)」、
尖閣・南シナ海問題のように「領土・領海の拡張」、
製造強国を目指す「中国製造2025」など、
枚挙に暇がありません。
習近平体制で中国は世界の覇権を目指し、
米国がこれまで推進してきた
新自由主義「グローバル・スタンダード」や
米国による世界平和秩序「パクス・アメリカーナ」に
挑戦しようとしているのです。
実は、中国の対外政策は、
習近平体制になって大きく変わりました。
これまでは、鄧小平が述べた言葉
「韜光養晦(トウコウヨウカイ)」が示すように
「自らの実力を覆い隠し、時期を待つ戦術」がとられてきました。
その中では、「米国と対立するな」、
「国際システムに挑戦するな」
「外交政策をイデオロギーで決めるな」
といったいくつかの指針があるとされています。
ですが、習近平体制は
「韜光養晦(トウコウヨウカイ)」を捨て去り、
奮起して成果をあげる「奮発有為」に移行したわけです。
※「奮発有為」は習国家主席が2013年に述べた言葉
打って出る時期が来たと判断したのか、
鄧小平の方針を覆し
歴史に名を刻みたかったのか
理由は定かではありませんが、
対外政策の大転換がなされたのです。
こうした習近平体制の方針に
感化された中国国民は、
今回の貿易戦争が
米国に追い付き追い越す
過程にあると考えており、
米国に屈すべきではないと思っているようです。
中国共産党の機関紙である「人民日報」では、
「ワシントンの貿易覇権主義は必ず敗れる」
と題した社説を掲載し、
「今回の障害を乗り越えれば、
必ずやさらに強大で自信に満ちた中国となるだろう」
と締めくくっています。
このように中国の覇権への挑戦は、
今回の貿易戦争でさらに表面化しつつあり、
決して引けない状況となりつつあります。
ですが、その一方で
習近平体制に反対する人々も
現れているようです。
2018年3月に習近平は憲法を改正し、
国家主席の「2期10年まで」の任期制限を撤廃し、
現在の任期が終わる2023年以降も
続投が可能な状況を作りました。
さらには、憲法序文に
「習近平による新時代の
中国の特色ある社会主義思想」
と自らの名前を冠した思想として載せ、
毛沢東思想や鄧小平理論と並ぶ指導理念としています。
こうした動きに不満を持っているのが
中国共産党の長老たちです。
中国共産党の指導部が
長老らと重要事項を話し合う秘密会議
「北戴河(ホクタイガ)会議」が
8月3日から開催されたようです。
そこでは、江沢民、胡錦濤、温家宝、
朱鎔基(シュヨウキ)といった4人の長老たち、
習近平、王岐山、李克強などが
出席すると見られており、
習近平指導部への批判が
集中すると噂されています。
これまでに4人の長老たちは
ハッキリとした態度は表明してきていませんが、
その意向が表われているとされる状況が起きていました。
例えば、あちらこちらに貼られている
習近平の肖像画が外されていたり、
中国の国営テレビ局CCTVでは
毎日7時のニュースのトップは
必ず国家主席のニュースだったが、
しばらくでてこなかったり、
新華社通信も同様に取り扱わなかったりしていました。
つまり、現在の習近平体制、
特に習近平への個人崇拝が強すぎると考えているようです。
この北戴河会議の結果次第では、
批判の多かった国家主席の任期制限が復活し、
習近平は2023年の任期満了で
退陣する可能性が出てくるのではとも噂されています。
また、一般国民にも習近平への
個人崇拝を批判する動きも起きています。
7月4日、上海の海航ビルの前で、
董瑶琼という中国人女性が自分の実名を名乗り、
街に展示している中国共産党の
習近平の肖像画に墨汁をかけ「反習近平」を訴えました。
彼女は、その状況をTwitterにアップし
瞬く間に拡散されましたが、
上海の公安(?)に逮捕・行方不明となり、
またTwitter社はすぐに該当のアカウントを凍結しています。
(その後、彼女を探していた父親も同様に行方不明となっています。)
こうした事態に共感した一部の中国国民が
同様に墨汁をかけたり泥を塗ったりをしはじめ
「墨汁革命」と呼ばれているようです。
実際には、その後ほとんど動きは
封じ込められているようですが、
中国国民の中にも習近平体制に
反対する人々が一定数いることがわかります。
このように、習近平体制は
習近平への個人崇拝を強めてきていましたが、
長老たちをはじめ一部の国民の反感を買っている状況です。
当然、今後も言論統制などで
国内世論を形成していくことになりますから、
表だった批判が出てくることはないでしょう。
ですが、長老たちの動向や、
米国への対抗姿勢を崩すことはできないですから、
その結果次第では国民の不満が
溜まってくることは間違いなさそうです。
そうした背景から
習近平体制を揺るがす事態に
発展する可能性も指摘されています。
とは言え、絶対的な権力を集中させている
習近平国家主席ですから、
簡単に崩れるわけはないでしょうし、
これまでの経緯や方向性を見ても
今回の貿易戦争から引くことは考えていないでしょう。
以上、3回に渡ってまとめてきましたが
いかがでしたでしょうか?
今回の米中貿易戦争は、
あくまでの米中の覇権争いの序章に
過ぎないことがお分かり頂けたのではないでしょうか。
米国が国家安全保障戦略で
主要な脅威と中国を名指しし、
中国は韜光養晦を捨て
覇権への挑戦を明らかにしている今。
今後、両国のどちらかが方針転換をしない限り、
それらは貿易から経済、安全保障、軍事へと
発展していくことになるのは間違いないでしょう。
こうした経緯を見ると、
今回の米中貿易戦争が
「米中冷戦時代の始まり」として
歴史の教科書に載ることになりそうな気がします。
いずれにしても、
日本へも多大な影響があるでしょうから
今後の動向を注視していく必要がありますね。