諜報部長!お世話になってます!
さすらいの情報収集家Kです

今回も、前回に引き続き
「RCEP(アールセップ)」についてです。
しっかりチェックしておきましょう!

RCEPの今後 参加国の思惑とは?

前回に引き続きRCEPについて
まとめてみたいと思います。

RCEPの趣旨や目的については、
前回の通り概ねご理解頂けたと思います。
ですが、RCEP参加国の立場や思惑は、
表向きのそれとはどうも異なるようです。

今回は、そうした裏側についても見てみましょう。

●TPPとは何だったのか?

RCEPの思惑に触れる前に、
まずはTPPについておさらいしておきましょう。
米国が主導してきたTPPは、
そもそもどのような意図があったのでしょうか。

それは、当時のオバマ大統領が次のように明言しています。
「中国のような国に世界経済のルールを
作らせてはならない。我々こそがルールを書くのだ」
つまり、資本主義・自由主義陣営である
米国が主導する自由貿易ルールによって、
共産主義(?)・統制経済である
中国主導の経済ルールを抑え込む
という目的がありました。

具体的には、中国が知的所有権の保護を怠っていること、
人民元のレートをわざと低く固定していること、
国有企業に低利の融資を行うなどして
不公平な競争をしている等、
西側陣営から見ると認めることができないルールを
間接的に認めさせる手段として使おうと
考えたのが米国のTPPの思惑でした。

当然、日本も同様の視点から
TPP参加を決めた経緯がありますが、
その裏には日米FTAの回避が
意図としてあったと言われています。

これも当時の交渉担当であった甘利経財相は、
「日米二国間での協議では押し切られてしまう」
という心情を吐露していたとか。
※実際、最近米国では日米FTAを進める方針を
打ち出しつつあるようです。

また、日本は同時にRCEPの交渉を進めていましたが、
各国の主張になかなか折合がつかずにいたところ、
先にTPPを締結してRCEPの基準にしたい
という狙いもありました。

そんな日米の思惑もトランプ大統領の登場によって
大きく情勢が変わってしまいます。
トランプ大統領は、TPPを
「アメリカにとって災難となる」
として離脱を表明し、国内の雇用を取り戻し
産業の復活を狙うと言います。

このように米国の方針転換により、
TPPはその意図と目的を失い、
宙に浮いてしまった格好です。

その後、各国の動きは鈍いながらも、
米国を除く11カ国で先行して発効する方向
で調整を進めているようです。

このように、TPPがRCEPに与える影響は
少なくなく、今後のTPPの動向も
注目していく必要があるでしょう。

●RCEP参加国の思惑

米国のTPP離脱で
RCEPへの注目が高まり始めています。
特にその勢いを増してきているのが、
中国です。

まずは、中国の思惑を見てみましょう。

【中国】

「中国は経済のグローバル化と
多角的貿易体制を支持し、
貿易・投資の自由化を促進していく」。

最近、中国の鍾山商務相は、
一帯一路構想やRCEPなどを軸に
アジア・太平洋の経済圏作りを主導する決意を
改めて表明しています。

実は、中国が2001年にWTOに正式加盟してからは、
各国・地域とのFTA・EPA協定交渉を
積極的に進めてきていたのです。
それは、「一帯一路構想」に通ずるものでもあります。

中国の一帯一路構想は、シルクロード経済ベルトと
アジア・アフリカ・北海航路を結ぶ海上航路のことで、
巨大なロジスティック構想とも言えるものです。

積極的に各国の支持を呼びかけてきた結果、
100を超える国と地域から支持・協力を得てきています。

その中には、途上国や新興国が多く含まれているため、
AIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げ、
資金調達の道筋も用意してきました。
※AIIBについては、信用不足から資金調達が難しい
とされていましたが、格付け業者ムーディーズが
突如最高ランクの格付けAAAをつけたこと等
により多少動き始めています。

中国は、こうした一連の構想に基づいて
動いており、RCEPもその一環と言えるわけです。
中国の持つ力は「人口・経済力・軍事力」と揃っており、
南シナ海に人工島を建設して軍事拠点化し
国際的な非難を浴びたことは記憶に新しいですが、
そうした事すらも黙らせつつある状況にあります。
仮にRCEPが締結した場合は、
おそらく中国主導のものになっているでしょう。

このように中国がこれだけの力を
発揮し続けることができるのは、
「選挙や政権交代のない共産党独裁体制であるから」
というのは実に皮肉なことです。

【インド】

インドは、モディ首相が掲げる
経済政策「モディノミクス」により
昨年(2016年)重要法案2件を成立させ
改革を着実に進めています。

その影響もあってか停滞していたGDPも
5%から7%成長、株価も上昇基調にあり、
若年人口が多いことから
将来的なポテンシャルが高い国家
として評価されています。

そのモディノミクスの中身は、
海外からの投資を促進し、
高速鉄道網等のインフラ整備を進め、
製造業や観光業などを中心に雇用を拡大させ、
高い経済成長を実現する
というもの。

そのために、比較的閉鎖的と言われてきたインドですが、
モディ首相誕生以降は多少前向きになりつつある
と見られておりRCEPについても期待が持たれつつあるようです。

しかし、インドには様々な障壁があります。
例えば、インドでは
国内の小売業者を保護すると言う目的で、
外資系企業のBtoCのEコマースを
一切禁止しているようです。
つまり、卸売りしかできないわけです。

そのため、外資系Eコマース企業は、
マーケットプレイスとして
インド国内企業にプラットホームを提供する形
で進出しているようです。

また、インドは知的財産権においても
独自の主張をすると言われています。

インドには、多くのジェネリック薬メーカーが存在し、
新興国・発展途上国へ安く薬を提供しています。
そうした背景から、RCEP交渉において
日本や韓国が製薬企業の開発した
医薬品の特許の保護を求めるのに対して、
拒否すると考えられています。

国際社会としては、国境なき医師団が
事実上インドの立場を支持していることもあり、
国際衛生上の観点から
日韓が不利な状況と言えそうです。

このように海外投資を取入れるという
基本的な方針を掲げるモディ政権ですが、
独自の観点での主張をしてくると思われるため、
どこで折り合いがつくのかわからない状況と言えそうです。

【日本】

日本としては、
TPPで高いレベルでのルールを実現し、
それをテコにしてRCEPに臨む
という目論見でしたが、トランプ政権の登場で
早くも崩れ去ってしまった状況です。

ここからどのように展開するかは流動的ですが、
同時並行的にこれまでの方向性に近づけて行く
というのが大方の見方でしょう。

まずは、TPPについても
米国を抜いた11カ国で発効を目指し、
多少なりとも高いレベルでの
ルールを実現する方針でしょう。
とは言え、米国は「日米FTAを締結するべきだ」
という方針を打ち出しつつあり、
これを上手くかわしてTPPへ誘導することが
必要条件となりそうです。

RCEP交渉への取り組みは前向きの姿勢を取りつつも、
中国やインドに引っ張られ低いレベルのルールで
締結するようなことになれば本末転倒ですから、
知的財産権や非関税障壁などの撤廃などで
折れることができないラインを
どこまで主張し続けられるかが
重要になってきそうです。

【ASEAN各国】

ASEANは今年(2017年)創設50周年を迎えており、
節目の年である年内にRCEPの大筋合意を目指す
と公表しています。
とは言え、交渉を難しくしているのは、
ASEAN以外の日本・中国・インドであるため、
「そっちで上手くまとめてくれ」
というのが本音でしょう。

実際のところ、ASEAN各国は
日本や中国とFTAを結んでいるケースが少なくなく、
RCEPの発効についてはそれほど重要視していない
という背景がありそうです。

●RCEP交渉はどうなるのか?




年内の大筋合意を目指しているRCEPですが、
大方の見方は「難しい」というところでしょう。
各国の立場を見ればわかりますが、
なかなか妥協するポイントが見つからなさそうです。

RCEPは、もともと日本のアイデアで、
日中共同提案したのが契機だったはずですが、
日本がTPPへ軸足を移したことで、
実質的オーナーは中国のようになってしまったのも
日本の立場を悪くしています。

事実、中国は米国のTPP撤退以降、
連日のようにRCEPの重要性を報道していました。

また、協議の進め方としては、
日本は「高いレベルのルール」という名目を
決して降ろすことはできないので、
最初から高いレベルを前提に話を進めますが、
中国はまずは合意できる範囲で進めるべき
だと主張しており、中国の巧さがうかがえます。
(「日本が強固に高レベルを主張している」という見方を定着させる意図か)

また、ASEANの多くの国は、
日本よりも中国の考え方に近く、
「とりあえず早く合意し、できる国から、
できることから進めていこう」
と考えているようです。

インドは独自の価値観から判断を曲げることはない
と思われますから、必要となれば参加するし、
そうでなければ不参加というスタンスでしょう。

こうした一連の状況を見ると、
日本の判断が実質的なキモ
となっていると言えそうです。

そういう意味では、年内に大筋合意したとすれば、
確実に日本が妥協したことになっているはずです。
そして、同時に日本の自由貿易戦略から
一歩後退したと言えるかもしれません。

また、年内に大筋合意できなかったとすれば、
それは日本が強固に主張し続けた結果と言えそうです。
その場合は、TPPの11カ国の締結や
米国の状況などを横目に見ながら
RCEP交渉を進めていくというスタンスになるはずです。

以上、いかがでしたでしょうか。
RCEP交渉は、やはり難しい状況ですね。
そしてやはりそのキモとなるのは日本
ということになりそうです。
中国勢による「早く締結しろ」という圧力が
日々行われている状況ではありますが、
日本としては国益を最大化することを
しっかり考えて慎重に判断してもらいたいところです。

それでは、今週の報告は以上です。
次回も宜しくお願い致します。