諜報部長!お世話になってます!
さすらいの情報収集家Kです。

さて、今回のテーマは
「TPP11」についてです。
しっかりチェックしておきましょう!

TPP11が衆議院通過 TPP11の内容をチェック<前篇>

米国を除くTPP協定(環太平洋経済連携協定)である
TPP11の承認案が5月18日午後の
衆院本会議で与党などの賛成多数で可決しました。
米国のTPP離脱からトーンダウンした感のあった
TPP協定ですが、かなり日本が主導して
まとめあげてきました。
気になるその内容は、
結局どんなものになったのか。
まとめてみます。

●ザックリと経緯を振り返る

TPP協定は、アジア太平洋地域において、
モノの関税だけでなく、サービス、
投資の自由化を進め、
さらには知的財産、金融サービス、
電子商取引、国有企業の規律など、
幅広い分野で21世紀型のルールを
構築する経済連携協定です。

特に、投資の自由化や知的財産権、
国有企業の規律などにおいて、
共産圏の主導的ルールを排除し、
自由経済を基本とした
国際ルールを構築することが
日本や米国などの思惑でした。

当時の報道が「中国包囲網」
と言っていたのは、こうした面からです。

TPPの交渉は、
2010年3月、鳩山政権時代にはじまります。
11年11月、野田前総理がTPP交渉参加の方針を表明。
これが、民主党内部の「野田降ろし」の火種となり、
12年11月に解散。
政権交代により安倍政権が誕生します。

自民党は、選挙期間中
「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」
との公約を打ち出していましたが、13年7月に正式に交渉参加。

この時、TPP交渉は「聖域なき関税撤廃を前提としない」
(≒聖域をつくる余地はある)という
苦しい理屈を展開、「重要5品目は必ず守る」としました。

以後、閣僚級、首脳級の会合を繰り返し、
15年10月、閣僚級で大筋合意。
16年2月に12カ国での署名式が行われました。

ですが、翌17年1月、
米国の政権交代により誕生したトランプ政権が、
「TPPから永久に離脱する」とした大統領令に署名。

米国の離脱でその意味を失いかけていたTPPですが、
日本が中心となって残りの11カ国を説得。
18年3月に11カ国による署名がなんとか実現されました。

今回の衆院通過は、国内法に適用させていくために、
まずTPP11の承認案を可決させたという状況で、
今後、TPP11に沿うように
関連法案を整備していくことになります。

経緯を振り返ると、民主党時代に始まったTPPは
自民党政権に代わっても引き続き推進されてきた
ということがわかります。

与野党を超えて国益を追求するという意味で、
何かメリットがあるのでしょうか。

まずは、TPP11の内容を確認してみましょう。

●TPP11の内容は?

日本の全貿易品目(9321品目)のうち、
TPPで最終的に関税をなくす
割合を示す撤廃率は約95%と、
国内の通商史上最高の水準に達することになります。

TPP交渉参加国の関税撤廃率

日本 米国 カナダ 豪州 NZ シンガポール
品目数 95% 99% 100% 100% 100%
貿易額 95% 100% 100% 100% 100%
メキシコ チリ ペルー マレーシア ベトナム ブルネイ
品目数 99% 100% 99% 100% 100% 100%
貿易額 99% 100% 100% 100% 100% 100%

主な内容を見てみましょう。

農業水産物

農産物について日本は、
コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の
「重要5項目」を除き、
農産物のほぼ全ての品目(82.3%の品目)で
関税が撤廃されることとなりました。

  • コメ:コメは関税を維持。ただし、オーストラリアに対しては年間8,400トンの輸入枠を新たに設ける。
  • 麦:関税を段階的に引き下げ、9年目までに45%削減。
  • 牛肉:現在の38.5%の関税を段階的に引き下げ、協定発効から16年目に9%に。
  • 豚肉:1kgあたり最大482円の関税を段階的に引き下げ、10年目に50円に。
  • 乳製品:バターと脱脂粉乳に新たな輸入枠を設ける。チーズは「粉チーズ」と「チェダー」「ゴーダチーズ」などの関税を16年目に撤廃。

重要5品目についても、かなりの割合で
関税を引き下げる内容となっています。

この内容で「重要5品目を守った」
と言えるのか疑問ですが、
関税撤廃したわけではない
という意味では守ったのかもしれません。

確かにコメは関税を残したので
「守った」と言える状況だと思いますが、
そもそもコメは国内で
減反政策廃止・戸別所得補償制度撤廃で
米作農家の衰退が予想されています。

そのため、値上げされるか、
大規模経営化が進むことになると思いますが、
消費者はそれよりも
安くて手っ取り早い輸入米を
求める傾向が強まる気がします。

オーストラリア産の米は、
日本米の種子から品種改良が進んだ
ジャポニカ種ですから、
味も普通においしく比較的安い状況です。

手厚く保護されてきた日本の米作農家ですが、
「意外と輸入米もウマい」と
消費者の意識が変わりはじめると、
厳しい状況に追い込まれることになりそうです。

個人的には、1993年の冷夏で起きた
米騒動の際に輸入された
「タイ米」のトラウマがあるので、
なかなか輸入米に食指は進みませんが、
まずは、外食産業などから輸入米の導入が拡大し、
気がつけば家庭でも輸入米を
普通に食べている日が来るかもしれません。

また、乳製品については、
国内の酪農は衰退の一途であるため、
チーズなどの需要の高まりに
供給が追い付いていない状況でした。
そういった意味では、加工食品業界を中心に
輸入品の拡大は歓迎する人も多そうですが、
国内の衰退はさらに加速し、
最終的には北海道の酪農家しか
生き残らない気がします。

こうして見ると、農業水産物への打撃は、
かなり大きいのではないでしょうか。

一方で、日本にメリットのある
工業製品についてはどうでしょうか。

工業製品

日本が輸出する工業製品の関税は、
協定の発効後「即時撤廃」と
「段階的引き下げ」を合わせて
最終的に全品目の99.9%で
撤廃されることになります。

対象となるのは主に、
カナダ・ニュージーランド・
オーストラリア・ベトナムなどへの
自動車関連の輸出関税。
即時または段階的に撤廃されることになります。

自動車産業は現地生産化が進んでいるため、
自動車関連輸出による関税撤廃の効果は
あまり影響がないというイメージがあります。

ですが、近年の状況を見ると
意外とそうではありません。

自動車の出荷内訳(2012年を100とした伸び率推移)

国内自動車メーカーの自動車生産は、
海外現地生産も急速に拡大している一方で、
輸出向けが好調に推移しています。
その傾向は輸出額ベースでも拡大しています。

自動車の輸出入額(完成車、部品)の推移

この背景にあるのは、
日本車への需要が急速に拡大していることにあります。

アジア圏の経済拡大に伴って
自動車への需要が拡大する中で、
信頼のおける日本車ブランドへのニーズが
伸びてきているのです。
同時に現地生産化も急ピッチで進んでいますが、
それに伴い自動車部品の現地法人への輸出も伸びているわけです。

こうした需要を受けて「国産自動車をつくろう」
というベトナムのような動き(※)がある中で、
ベトナムから3,000cc超の自動車関税
70%かかっていたものを
10 年目に撤廃するというのは、
なかなか攻めている内容になっているかもしれません。
※・・・ベトナムの不動産大手が自社ブランドの完成車をつくると発表

いずれにしても、加盟国の貿易に
少なからぬ影響を与えるTPP11。

次回は、その経済効果についてまとめます。

次回も宜しくお願い致します。